奈良山 友会 山行の記録


裏剱
秋の黒部 峡谷 下ノ廊下


2005年10月7日(金)〜10日(月)



<メンバー>
L.Mt.冨士 SL.山遊亭軟弱、へんなおじさん、porori、くぅる、 チョモランマ

<コース・コースタイム> 
10月7日 近鉄平端駅20:00−名阪国道―名神―中央道―長野自動車道―扇沢01:50(テント泊)
10月8日 扇沢06:30−黒部ダム―別山谷出合―東谷吊橋―阿曽原峠―阿曽原温泉小屋16:45(テント泊)
10月9日 阿曽原温泉小屋06:10−欅平12:07-宇奈月温泉−魚津−糸魚川−信濃大町-扇沢21:30(テント泊)
10月10日 扇沢08:00−長野自動車道―中央道−名神―名阪国道―近鉄平端駅14:40

紅葉の裏剣を歩ける事、楽しみにしていましたが、降雨中の歩行、2回も転落しそうになり、体調を崩し最悪でしたが、
楽しい事も沢山ありました。そしてメン バーのみなさんのお陰で無事歩く事ができありがとうございました。

1日目(10月7日)
集合場所の近鉄平端駅にはもうメンバーと車が待っていました。メンバーに挨拶をして出発。
車はワンボッ クスカー2列シート+Sシート付です。運転は男性が交代して運転します。
カーナビが無いのでどうしようと思っていたら、「クチナビがあるから大丈夫」と声 がかかり、余計心配になりました。
私の運転の番になり、中央道から長野自動車道には、クチナビの指示があり無事に入る事ができました。
車内はロイヤルホス トがどうのとか、恐竜はまだあるのかとかで、盛り上がっていたのに急に静かになり心配が的中しました。
間もなく後ろから「ロイヤルホストが過ぎて行く」と クチナビが言うではありませんか、降りるインターチェンジを通り過ぎたのです。クチナビほどあてにならない事がよくわかりました。
次のインターで引返し豊 科インターを下降して一先ず安心。扇沢の駐車場に着きテントを張り、今日からの山行を楽しみにして、ビールで乾杯後消燈。

2日目(10月8日)
扇沢6:30発のバスに乗る為起床は4時30分、睡眠不足も手伝い身体が重い。
準備が整い出発。扇沢駅では未だ5時過ぎと言うのに、切符売場には大勢の人 の列が出来ていました。

乗降順番を待合室で待っていると空は綺麗な朝焼け、「朝焼けに晴れはなし」、この言 葉が気にかかり天候に不安を感じました。
何せ リーダーは雨男大明神なのです。

6時30分発黒部ダム行きの関電トロリーバスは多くの乗客を乗せて出発しました。
関電トンネルに入り、(独り言ですが、中島みゆきが紅白歌合戦で歌ったの は、この場所あたりかなあと思ってみました。)
15分後バスは黒部ダムに到着、展望台に行く長い階段を登ぼると、そこにはダム黒部ダム(黒四ダム)が間じ かに見えました。
立山、後立山連峰を挟んでのダムの景観は雄大さを通り越して、よくもこんな場所にダムを作ったものだと感心させられました。


黒部ダム..下流で事故捜索の為観光放流は行われていませんでした

観光はここま で、さあ、裏剱下ノ廊下に挑戦です。
下ノ廊下の正式名称を「旧日電歩道」と言います。発電所開発に作られた登山道です。
9月中旬から10月下旬のわずか1ヶ月ほどしかこの道をあるくことは出 来ません。
黒部川峡谷が紅葉で満開になる時期です。下ノ廊下の登山道に入るのは一度元に戻り、川原にでるトンネルを抜け車道に出ます。


関電さまのおかげで、大正時代まで全くの未踏の地であった黒部渓谷が一般大 衆へ開放さえたとのことですが、
その裏では多くの犠牲をはらったようです..

車道をショートカッ トし、急降下でダム下まで下ります。
ダムを下から見上ながら対岸に渡ります。遭難事故者捜索の為、ダムからの放水は見られませんでした。
しばらくは川沿い の樹林帯を歩き、谷も浅く高度感も無く進んでいきます。
やがて水平道となり渓谷らしくなってくると、しっかりと足元を見て歩かないと転落します。          
ダムを出発して1時間後、1回目の休憩です。

空は雨雲が下がってきています。やっぱり雨かなあ、心配を他所に出発。
峡谷は深さをまし、道は 次第に細く険しくなり始めた頃、ついに雨が降ってきました。レインウエアを着て先に進みます。

別山谷出合に到着ダムを出発して3時間45分。ここでは多くの人が休憩を取っています。我々も休憩をとり昼食としました。
別山谷出合の谷筋から流れ落ちる 水は滝その物で迫力があり、谷水を飲んでみたが、実においしいので谷水を水筒に詰めて、
気合を入れ別山谷出合を後にしました。
道はだんだん険しくなってき て、ほとんど垂直に近い岩壁をくりぬいた道幅50センチくらい、下を見ると断崖絶壁、よそ見して歩くと非常に危険です。



トラバース用に作られた幅50セン チほどの小径木の丸太橋が雨で良くすべります。
そして沢水は滝のように振り掛かってきます。峡谷の水は物凄い迫力で流れ、歩行中転落でもしたら100%助 からない場所です。



  こんな危険な場所で、私にアクシデントが3回も発生したのです。1回目は歩行中にバランスを崩し転んだのです。
2回目は1枚岩スラブで靴が滑り転びまし た。岩肌に取付けている手がかり用の針金番線を確保し転落しなかった事はラッキーでした。
3回目は左足のふくらはぎに激しい痛みが起こりました。
この痛み は以前、経験した右足ふくらはぎの肉離れと同じ痛みでした。
「やってしまった。歩行は無理かもしれないな。」と思いました。休憩を取りテーピングで処置を して様子を見ました。
痛みはあるもののゆっくりとなら歩けるので歩行ペースを落として歩くことにしました。

雨は止む気配など一向に見せず、私達をあざ笑うように容赦なく降り続いています。
レインウエアを着ていても何処からか水は浸入して、下着は濡れ身体は不快 感でいっぱいです。
ザックカバーをしていてもザックの露出部分は水分を吸い重く肩に掛かってきます。
楽しいはずの山行が最悪の状態です。景色など見る余裕 さえなくなり、足元をみて寡黙に歩き続けました。

十字峡に近づくにつれて、いままでの緊張の連続した登山道から歩きやすい登山道に変わってきます。
十字峡は南から北に向かう黒部川本流に、東から棒小屋 沢、西から剣沢が十時に合流しています。


十字峡 親切なハイカーさんから、とても綺麗だから是非見る ようにと薦めて頂きました。

この峡谷の美しい場所の一つです。十字峡に架かる吊橋を渡り半月峡、S字峡をすぎ今度はスリル満点の東谷吊橋で す。
人一人が渡れる吊橋は結構長く、橋の真中付近では大きく波の様に揺れて足が止まります。
足元を見ると下は激流です。落ちればここも助からないと思う と、恐怖心でいっぱいになり次の一歩が出ません。
おしりに何故か力が入ります。(これは私だけでしょうか。)
渡り終えると仙人ダムに続く林道にでます。

ダムを出発してから8時間、休憩を入れて仙人ダムに向かいます。
仙人ダムに着くと登山標識はダム施設の方向を指しています。そうです、施設中の高熱隧道を 進んで行くのです。
隧道の中は熱く硫黄の臭いが満ちていました。
(また独り言ですが、織田裕二も「ホワイトアウト」の映画で隧道を走っていたなあと思いだしまし た。)
ダム施設を通り抜け、今日の大一番阿曽原峠に進みます。長い距離を歩いての峠の急登は地獄です。
身体はギシギシと悲鳴を上げています。メンバーから かなり遅れてしまいました。
リーダーが私に「もう少しで着きます。頑張りましょう。」と声かけてくれました。この言葉が効いたのか何とか登りきりました。

つぎは下りです。足元が悪く岩がゴロゴロして歩きにくい長い下り道を急降下に下ります。
両膝はガグガク、両腿は筋肉痛、両ふくらはぎはパンパンに筋肉は 張っていました。
身体はダウン寸前で阿曽原温泉小屋に到着、先着メンバーに「お待たせ、お疲れ様」と声をかけた瞬間無事歩けたとホッとしました。
小屋で飲 んだ水の旨かった事。リーダーのかけてくれた言葉は忘れはしないでしょう。

長い一日がようやく終わろうとしています。ダムを出発して9時間45分、歩行距 離14km。

 阿曽原温泉小屋のテント場は小屋から下がった場所にあります。
そこにはすでに多くのテントが張られていました。
降り止まない雨の中、私達もテン トを張り必要な物をテントに入れ、ザックはツエルトを被せ野外に放置します。
濡れた下着を着替えてテントの中に入ります。室内は快適でコンロに火を起すと 冷えた身体が温たまります。
食事前にビールを飲むのですが、不思議な事に疲れた身体がビールを欲しがりません。
おかしいなと感じていましたが、時間が経つ につれ身体が、おちついてくるとビールが飲みたくなり買っとけば良かったなあと後悔しました。
ビールを分けて貰い、胃の中に「やっぱぁ〜うまいなあ」ホォ〜 (●^o^●)

 食担当のpororiさんから「夕食のメニュ―、牛丼ですよ。」と発表があり、
レトルトフードかなんかかと思っていたら、保冷バックから生ミートを取出し肉 を炒め始めます。
香ばしい臭いと食欲をそそる音、思わず汁だくでお願いしますと声が出そうになりました。
おいしい食事が終わり、お腹が一杯なると今度は 睡魔がやってきます。
みんなは明日の行程の話をしていますが、私は眠くて仕方がありません。
明日の行程は天候をみて、リーダーが判断することになり消灯で す。
消灯して間もなくいびきで起されるはめに、耳栓を付け再度仕切り直しです。
明日は晴れるかなあ雨かな、と思いを巡らしていたら眠りに落ちていました。

3日目(10月9日)
 朝4時頃テント場の周りが騒がしなり目が覚めたが、このまま寝かしてほしい気分です。
4時30分起床、身の回りを片付け洗面の為、外にでたが天気は回復 しておらず、小雨が降り続いていました。
吐く息は白くはっきりと確認できます。体感はかなり寒く感じました。朝食のハムロールパンを食べ終わるとテントを 撤収にかかります。
今日も降雨の中の行程かと思うと気分が重くなり、行程どうなるのかなあと案じていました。
リーダーが小屋に天候を聞きに行き、今日の行 程が決まります。

通常行程は、阿曽原温泉小屋−仙人峠−池ノ平(ピストン)−真砂沢です。
このコースはアップダウンが多く急登、急な下りがあります。この行程を降雨の中を 歩くなら私の身体が拒否反応を起します。
リーダーが小屋から帰ってきての答えは「今日の天候は小雨から曇りです。仙人峠方面には行かず欅平に下だりま す。」
下山を意味する言葉でした。これこそ「神のお言葉」です。」私的には助かりました。

6時10分阿曽原温泉小屋から欅平へ向けて出発です。
欅平までの登山道は多少のアップダンはあるが、昨日の道よりは険しく無く殆ど水平道です。
水平道に出 るには、テント場から沢を越えて登り返しがあります。この登りも急登で朝一、結構きついものとなりました。
水平道に出てからは樹林帯もあり、足元には落ち 葉も落ちており昨日とかなり違います。
また峡谷から離れて行くので昨日とは景色もだいぶ違います。

阿曽原温泉小屋テント場を出発して1時間5分1回目の休憩です。
ここで私に4回目のアクシデントが発生しました。昨日の降雨の中靴に水が浸入し、靴の中が 結構なウエット状態でした。
足の裏がふやけて弱くなり、靴擦れを起していました。右足の親指の裏側に大きな水脹れが出来ているのでした。
靴擦れを起した親 指は歩くたびに痛みがはしる様になってきました。痛みを伴っての歩行は最悪です。
 
欅平に向かう登山道で志合谷のトンネルに出会います。
沢の裏側に作られたトンネル道をくぐり抜けます。トンネルの中は狭く足元に湧水が流れていて足元が濡 れます。
そして光がまったく入りません。閉所恐怖症の人なら間違いなく倒れていると思います。
ヘッドランプに照らされた岩壁は、岩石の鉱脈が妙にキラキラ と光っていました。
このトンネルを過ぎると欅平までは半分の道程です。これからはアップダウンが続く樹林帯の登山道になります。
 
阿曽原温泉小屋 テント場を出発して4時間30分、2回目の休憩です。
雨はすっかり上がり空は明るくなって、少し薄日がさし始めてきました。
天気が好ければ木々の間から東の 方に、白馬稜線や不帰のキレットが見えるそうです。
私には確認する余裕など有りません。アップダウンの登山道は靴擦れの足にダイナマイトなみのダメージを与 えてくれました。
靴擦れの足の水脹れは肥大化し、触れるだけでも飛び上がる痛みになっていました。
もう少しで欅平に着くと言うのに、ブルーな気持になりマ ジ、ついていないなあと思いました。歩行ペースはいっきに落ちました。

送電線の鉄塔が出てくるとトロッコ電車の欅平駅が見え隠れしてきます。
そして電車の 汽笛が聞こえてきます。欅平に着くには最後の難所の350m程の急坂を下ります。
この坂道では靴擦れの右足は踏み出すたびに激痛がはしり、
ストックを松葉 杖の代わりにして歩く状態になっていました。歩き始めた子供と同じです。
一歩、一歩、歩くのが精一杯です。下り坂を2倍以上の時間が掛けて下りました。
11時50分欅平に到着しました。阿曽原温泉小屋テント場を出発して5時間40分歩行距離8q。
強烈な山行はここで終わりますが。ここから扇沢までの到 着時間と交通費の戦いが始まるのでした。



文:チョモランマ 写真:山遊亭軟弱、くぅる